お早うございます。早起きディレクターです。
”旅のVTR”をYouTubeチャンネル「早起きTVディレクター」にアップロードしました。
「カメラ片手に小さな旅」という旅シリーズの第2弾で、撮影場所は和歌山県の熊野古道です。
18年ぶりの再訪でした。
ここは自分のディレクターとしての人生でも大きな分岐点になった、とても重要な場所です。
楽しいことや辛かったことなど数々の思い出があります。
そして、つい先程、この思い出の場所にまた悲しい記憶が加わりました。
もう皆さん佐川満男さんの訃報はご存知かと思います。
僕にとって熊野古道と言えば、まっさきに名前が思い浮かぶ大切な人が佐川さんなのです。
ディレクターとしての分岐点
はじめて熊野古道をおとずれたのは西暦2000年4月。
もうすぐ40歳になろうとしていた春です。
いわゆる中堅ディレクターからベテランと呼ばれるようになる頃。
その時はNHKの依頼で熊野古道をテーマに10分弱くらいのVTRを5本作るという仕事でした。
でも一本の尺が10分とは言え、全長1000キロの熊野古道を舞台に脚本も全てこちらで0から準備しなければなりません。
だからシネハン、ロケハン含めて全部で2週間ほども和歌山県にこもりっきり状態でした。
長丁場の取材では色んなトラブルも起こり正直、心身共にしんどかったです。
しかし毎日、熊野の自然・・・木々とそれを揺らす風と太陽と森の影と時折降る激しい雨、そしてそこで暮らす人々の中にいるうちに、いつのまにか自分の中にいままでなかった不思議な想いが芽生えてくる感覚がありました。
これが人間にとって普通なんじゃないかと。
熊野古道で暮らす人々、可憐な童子
古道での長い旅の途中には数々の出会いもありました。
印象深いのは熊野古道最大の難所「大雲取越え、小雲取越え」の麓の集落で民宿を営むおばあちゃん。
甘い味つけの味噌汁には少々閉口しましたが、それでも素朴な田舎料理や親戚の家のような温かいおもてなしは長丁場の撮影スタッフにはありがたかった。
ある日の早朝、ロケの緊張で眠られずぼーっとした頭で表に出たら本日も好天の予感。
ふと通りを眺めると民宿のおばあちゃんが山から顔を出したばかりのお日さまに向かって熱心に手を合わせていました。
その光景があまりに美しくて、神々しくて・・・
感動してアホみたいに眺め続けていたのを覚えています。
そして近露(ちかつゆ)という里の手前で中辺路のシンボル「牛馬童子(ぎゅうばどうじ)」と出会った時よく覚えています。
そこへ至る山道かなり険しかっただけに、その可憐な姿を見た時の感動は大きかった。
あれから数年後、心無い人によるいたずらで頭部を破損され盗まれるというような事件もありましたが今は無事修復されて元の場所に鎮座しています。
25年という時間が流れればいろんなことが起こります。
この撮影の頃から40代になり、テレビに関する考え方、向き合い方もだんだん変わっていきました。
流行を追った情報やバラエティー番組よりも、もっと「人の根源的な願い、想い」みたいなものに焦点をあてたテレビ作りをしたいと考えるようになりました。
佐川満男さんとのはじめての旅舞台「熊野古道」
そして6年後の2006年にも再び熊野古道を舞台に印象深い取材をしました。
その頃はMBSのワイド番組「ちちんぷいぷい」で久しぶりに「前略旅先にて」という旅コーナーのディレクターを任されて、嬉しいながらもかなり緊張していた時期でした。
そんなドキドキ感の中で出会ったのがコーナーに旅人として出演していた佐川満男さんなんです。
”歌手で俳優で絵も達者な”佐川さんも当時66歳でそろそろ人生後半期。
数年前に手術した胃のことをいつも気遣っておられ、ロケ先でも食事の時間や休憩時間などは常に守らねばならない環境でした。
だから20歳も年下の元気なディレクターである僕のやり方をかなり気にしておられたと思います。
そんな中、第1回目のロケ先として向かったのが和歌山県川湯温泉と熊野古道でした。
あれほど素敵な大スターに出会えた幸せ
佐川さんも、初めて仕事する制作陣や技術スタッフも行き先のロケバスではちょっと他人行儀だったものの、到着後、ロケ地の川湯温泉で撮影するうちに佐川さん独特のおっとりした”空気感”のおかげでいつの間にか場は和やかな雰囲気に。
紅白に何度も出場する大スターであるのに気取った素振りは微塵も見せず、逆に育ちの良さゆえ?の天然のボケ味が大いに魅力でロケ現場は温かい笑いに包まれていました。
そして撮影翌日、熊野古道の神域である「発心門王子(ほっしんもんおうじ)」で古道を描く頃にはすっかりみんな佐川さんのことが大好きになっていました。
スタッフの雰囲気も最高。
それもこれも全部佐川さんのおおらかな人柄のおかげなんです。
あの時はまさかその後も佐川さんと長くお付き合いさせてもらえ、ましてやその時に描かれた熊野古道の絵画を家の玄関に飾れることになるなんて思いもしませんでした。
引っ越し祝いに頂いた「熊野古道」の水彩画は我が家の宝物です。
・・・・・
4月20日、この熊野古道の動画を完成させた直後に佐川さんの訃報を知りました。
動画の編集中、ずっと佐川さんとの思い出が頭によぎっていました。
完成したらすぐに佐川さんに連絡をしてこの動画を誰よりも早く見てもらおうと思っていました。
どんな運命の偶然なのかはわかりませんが今はとにかく悲しいです。
佐川さん。
われわれはあなたのことが本当に大好きでした。
今回の天国への旅路が病など煩わしいことを何も気にしないですむ心穏やかなものになりますように。
心から御冥福をお祈りします。
動画
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