お早うございます。早起きディレクターです。
最近は土曜の夜に衛星放送で「男はつらいよ」を再放送していますが、今更ながらこの映画はテレビの映像ディレクターにはとても勉強になります。
山田洋次監督の人間を見る目の優しさ(時に残酷さ)深さは特に若いディレクターなら見ておいて損はない。
もはや落語と同じくらい人間の情の機微を学べる宝の山だと思います。
ちょっと異色な「寅次郎あじさいの恋」
寅さんファンならみんな「男はつらいよ」シリーズにそれぞれ深い思い入れがあると思うんですが、あえて「ベストワンをあげよ」と言われればどれですか?
僕は”いしだあゆみさん”をマドンナに迎えた「寅次郎あじさいの恋」を選びます。
普段の「男はつらいよ」が100点満点ならば、この回は150点くらいの傑作だと思います。
この「寅次郎あじさいの恋」のワンシーンで、片岡仁左衛門演じる世界的な陶芸作家(河井寛次郎がモデル)が酔いながら陶芸の心得を寅さんに語るシーンがあります。
「土を無心に触っているうちに自然に良いものができるんや」
「良いものを作りたいとか、褒められたいなどと考えたら決して素晴らしい作品は作れない」
この「寅次郎あじさいの恋」こそ、そんな邪念などまったくない気持ちで作られた(まるで映画の神様に見守られたような)映画なのではないでしょうか。
とにかく前編「画面がしっとりと濡れている」
特にマドンナ”かがりさん”の故郷、丹後半島伊根町を寅さんが訪れる場面は秀逸です。
夜に1つの部屋でとつぜん二人っきりになった寅さんと”かがり”。
寅さんに思いを寄せる大人の女の控えめだけど情熱的な姿。
そんなかがりに当惑する”男(少年)”寅次郎。
男ならおもわず唸るシーンです。
この映画のいしださんの演技はあくまでも「控えめ」で決して騒々しくはありません。
もしかしたら全編を通してこのどこか「控えめ」な世界観が漂うこともこの「寅次郎あじさいの恋」をそれまでの作品とはちょっと空気の違う、一段上のステージにおしあげた要因なのではないでしょうか。
もちろん浅丘ルリ子さん演じる”りりー”さんや榊原るみさん演じる”花子”ちゃんはじめ、それまで「男をつらいよ」を彩ったマドンナ達はみんな素敵ですし作品に文句はありません。
でもいしださんの”かがり”はちょっと趣が違うんです。
控えめで暗い女性なんですが思わずその裏(色っぽい)を想像させるんです。
このように視聴者にあれこれと想像させる手法は今のテレビではあまり見られなくなりました。
抑えた演技が絡み合う妙
そんな”かがり”と寅さんが織りなす控えめな女と男の関係は葛飾柴又での再会後、甥っ子の満男(吉岡秀隆)を伴った鎌倉でのデートシーンまで糸を引いていきます。
鎌倉は6月。二人の気持ちを象徴するように咲き誇る紫陽花。
赤い服を来たかがりさんは青いシャツの寅さんと出会いますが、やはりここでも自分の思いを伝えることは出来ません。
かがりの気持ちが痛いほどわかりながらも最後は去っていく寅さん。
その寅さんの心情、様子をさくらたち家族に語るおいっこ満男の悲しそうな横顔がまた泣かせます。
こんな役者たちの抑えた演技が見事に絡み合う画面を見ながら、視聴者たちは登場人物の心情をおもんばかり、笑いそして涙する。
いやはや恐れ入谷の鬼子母神です。
ちなみに丹後半島の「伊根町」も京都東山五条坂の「河井寛次郎記念館」も紫陽花が咲く鎌倉の「切通し」も、登場する主要なロケ地は、全部これまでテレビ取材の仕事で訪れたことのある思い出深い場所です。
貴重な経験をさせてもらってなんともありがたいことです。
0 件のコメント:
コメントを投稿
ご意見